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栗の木さん:七飯町


この木は樹齢約600年で古い街道沿いにあり、明治はじめ頃も目立って大きい木だった。
昔から生命のある木として敬愛され、この木を切ると血が出るという話が信じられてきた。
また、この栗の木の実を食べるとよくないことが起こるという噂もあった。
箱館戦争のとき、このあたりが激戦地となり、多くの血が流され、引き取り手のない死体をこの木の側に埋めたため、この話がますます広がっていった。
明治の終わり頃台風のためこの木の枝が折れたが血が出なかったため、栗の木の伝説を信じない若者がその枝を持ってきて焚いた。すると、間もなくこの若者は死んでしまったという。皮肉にも、古くからの伝説はますます信じられた。

レポートと解説

「一本栗地主神社」境内に御神木として祭られています。
以下、かなり長文ですが実際に神社の方から由緒についてお話をお聞きすることができたので、詳細なレポートを記しておきます。

栗の木周辺で起こっていた怪異

この神社の初代の神社守の方(お話ししてくださった方のお母様)には、もともと不思議な力があり、函館市内でごく普通の暮らしをされていたそうですが、「占いがよく当たる」との噂を聞きつけた人々が、よく訪ねてきていたのだそうです。

ある時、栗の木の近所に住む方が、自分の家族に怪異が起こるので占って欲しいと七飯から訪ねてきました。早速占うと、その方の家の近くに不思議な木があるとのお告げ。調べてみると、古来より伝説の残るこの栗の木があったそうです。
栗の木の側で占うと、ここで昔アイヌと和人との戦いがあり、ある武将が最後を遂げた場所だということが見えてきたそうです。その武将とは、函館(箱館)の由来となった宇須岸館を函館山山麓に中世に建てた、河野加賀右衛門政通(河野加賀守)でした。

河野加賀守

彼は、享徳3年(1454年)津軽の安東正季や武田信広(松前氏の始祖)とともに渡道。現在の函館市元町に東西92m、南北115mの大きな館を築きました。
しかし、康正2年(1456年)から翌年にかけて起こった、アイヌのコシャマインの乱によってこの館は落とされてしまいました。
以上が、歴史的な事実となっています。

栗の木周辺は、そのコシャマインの乱の際に激戦地となったとの事。
戦いの後は、戦死した人たちの遺体がゴロゴロしていたでしょう。それで、人々がその当時すでに大木であったこの栗の木の側に、遺体を埋めたというのです。

しかし、河野政通は討たれたとはいえ、後の松前家の始祖となった武田信広とも同格の武将。
「このまま誰にも祀られないままいるのは、口惜しい。何とかして生きている人にこのことを伝えようと、これまでずっと栗の木を通して怪異を起こしてきたが、誰にも気づいてもらえなかった」・・・・・・と語ったそうです。

一本栗地主神社

怪異が現れたという方は大工さんだったので、すぐに栗の木の下に祠を建てようとしたそうですが、「そんな小さなものではダメだ。」とのお告げ。
しかし、大きなお社を建てるといっても、みなさん一般の人たちでそこまでのお金はありませんでした。
とはいえ、ここまで現れてしまったものをこのままほうっておく訳にはいかなかったので、何とかお社だけでも建てようということになったそうです。

栗の木は当時芋畑の中にありましたが、周囲に何を植えてもうまく育たないために、放置されていました。そこで、この土地の持ち主に栗の木にまつわるお話をすると、安く土地を譲ってくれたそうです。
そうして、河野加賀守を祀ったお社が完成しました。激戦地(コシャマインだけではなく、箱館戦争でも)だったというこの土地を鎮めるために、彼とともに大地主神(おおとこぬしのかみ)もお奉りしたそうです。昭和43年のことでした。それ以来、一帯の怪異はぴたりと止んだそうです。

再びお告げ

それからまたお告げがありました。
実は、松前藩亀田奉行所の酒井喜澄が、函館の始祖といえる河野加賀守を祀った神社やお寺がないことから、宝暦3年(1753)に称名寺に供養碑を建てていたそうです。しかし、その後の大火や戦乱によってその碑も壊れてしまい、きちんと整備されていないとのお告げでした。
そこで、市内のお寺をくまなく探すと、称名寺(しょうみょうじ)の打ち捨てられていた古い無縁仏のお墓の中に、とうとうその碑を発見したというのです。その碑は、現在称名寺境内に立派に建立されています。

栗の木が・・・

神社創建の折、栗の木の専門家に見てもらったところ、樹齢1000年はくだらないが、そのような栗の木は存在するはずがないといわれたそうです。なぜなら栗の木の寿命は600年が限度だそう。それでも、実際にこの栗の木は昭和43年当時は、元気に立派に枝を伸ばしていて、この専門家からも「あと200年はもつよ」とお墨付きをいただいたそうです。

しかし、神社も建てられてしっかりとお祀りされ、以前建てられていた碑も元通りになった頃から、栗の木はどんどん枯れていきました。まるで、自分の使命を果たしたかのように、枯れていったというのです。積年の思いが遂げられたからなのでしょうか。
現在では、向かって左側(道路側)に伸びた枝のみ、かろうじて生きているようです。
その代わりに、向かって右側のハルニレの木、左側の桑の木が、枯れてしまいつつある栗の木を守り支えるように、枝を包み込んでいます。

現在は、ほとんどハルニレの木に覆われています。
神社の方は、「枯れてしまった姿を見せないように、ハルニレの木が隠してくれているようだ」と話していました。

雑感

私は、いわゆる霊体験は経験したことがありません。でも、信じていないわけではありませんし、いても別におかしくはないと思います。
説明の出来ない人智を超えた「不思議なこと」というのは、実際に起こりうると思ってはいます。(大槻教授の言いたいこともわかりますがね。人間がこの世界のすべてを解き明かしているんだと考えることは、非常におこがましいなと思ったり・・・

この神社の初代の方が経験したという「お告げ」も、お告げを受けたことのない私にとっては、頭で理解することは難しいですが、それでもその「お告げ」というもので、こうしていろいろな事実が浮かび上がってくるのを目の当たりにすると、「不思議なことってあるんだなあ」とただただ感心してしまいます。

この栗の木も、大昔からあって切り倒されずにいたということは、やはり昔から何らかの理由があったのだと思いますし。この土地の人たちも、栗の木から何かを感じ取っていたのでしょうかね。

ただ、一つ引っかかっていることがあります。戦乱で同じく命を落としたであろうアイヌの人々のことです。どこかにきちんと祭られているんでしょうか。
この神社には、どうやら和人のみ祀られている様子でしたので・・・。
でも私は、この栗の木がこの戦乱で命を落とした人、全ての墓標となっているのかもしれない、と思いました。なぜなら、この栗の木の下に遺体が埋められたことは、十分考えられることだからです。
自分が埋めるとしたら、何もないその辺に埋めるよりも、大木の側の方が死者を慰めてくれるだろうと考えるでしょう。だから、埋めるときには和人もアイヌも関係なく埋めていったと思うんです。そして、そういう人たちのいろいろな思いを吸い上げて、今の世までこの栗の木は生きてきたんじゃないかと感じています。
和人、アイヌ、そんなくくりは関係なく、一連の戦乱で命を落とした方々すべてが安らかにありますように。

伝説を訪ねるたびにいつも思うのは、これらの由緒を忘れずに人々が継承していかなければならないということです。
自分たちは過去の様々な出来事の上に、現在存在しているんだということを忘れずに、しっかりと後世に伝えていくことが、無念の死を迎えた人への供養にも、自分への戒めにもなるのではないかといつも感じています。

北海道亀田郡七飯町大川9丁目1−19
所在地
七飯町大川(旧国道沿い・セブンイレブン近く)
参考文献
3/p.101 14/p.78
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